遺跡探査
遺跡探査実施時は事前申請が必要
遺跡は「埋蔵文化財」と呼ばれ、学術的な価値を持つ文化遺産です。そのため、新しく道路をを建設したり家を建てたりといった土木工事が発生する場合には、その土地が埋蔵文化財包蔵地に含まれていないかを確認し、含まれている場合は文化財保護法に基づく調査を実施することが定められています。古い上物を取り壊して建て替える場合も、例外ではありません。また駐車場の整備や水道管の敷設、樹木の抜根も土木工事となり、遺跡探査が必要となります。
遺跡探査の手法
地中レーダ法
地中レーダ法は、地中に電磁波を送信し、反射波を解析することで地下構造を画像化する手法です。この方法は、埋蔵物や遺構を非破壊で特定するため、遺跡の損傷を防ぎつつ広範囲を迅速に調査できます。最新技術では、3次元のレーダ断面図を生成でき、石棺、墓地、遺構などの正確な位置と形状を把握することが可能です。特に、深層の構造や硬質な素材にも対応できる点が評価されています。
電気探査法
電気探査法は、地下の抵抗値を測定して地層の変化を捉える方法です。地面に電極を設置して電流を流し、地中の電気抵抗の違いから水分量や土壌の種類、異なる地層の位置を特定します。地下水の流れや埋没した構造物の位置を把握するために有用で、地中の水分が多い場所や湿地遺跡の調査に適しています。この手法は、土壌環境の影響を受けやすいものの、地中の異常を広範囲に検出できるメリットがあります。
磁気探査法
磁気探査法は、地中の磁気異常を計測することで、金属製の遺物や焼土などの磁気を帯びた埋設物を検出する手法です。鉄器時代の遺跡や、焼成された土器や石材の検出に特に効果的です。高感度の磁気センサーを使うことで、非金属の埋蔵物も把握でき、微細な磁気変化も検出可能です。この手法は、地表付近の小さな異物も高精度で特定できるため、精緻な考古学調査に役立っています。
音波探査法
音波探査法は、音波を地中や水中に送り込み、反射音を解析して地下構造を探る方法です。水中考古学や湿地遺跡の調査で頻繁に使用され、水中に埋没した船舶や構造物の発見に効果的です。また、音波の伝播速度の違いを利用して、異なる材質の埋設物を識別できます。特に、海底や湖底の遺跡探査において、音波の反射データを解析することで、詳細な地形や埋蔵物の位置を特定することが可能です。
試掘調査
試掘調査は、事前に行われた非破壊調査の結果に基づき、限定的に掘削を行う手法です。遺跡の規模や内容を確認し、出土する遺物や地層の状態を直接把握できます。調査範囲を最小限に絞ることで、遺構へのダメージを抑え、詳細な情報収集が可能です。この方法は、発掘前の評価段階として用いられ、地中レーダや磁気探査と組み合わせることで、効果的な調査が行われます。
ここでは、地中レーダによる低リスクな非破壊調査が可能な建設コンサルティング会社を紹介しています。
地中レーダー探査は遺跡調査の新しい方法
地中レーダー探査は遺跡探査のための方法として比較的新しいものですが、他の測定方法と比べると速度が速い上に現場ですぐに結果を提示できるという特異な点があるため遺跡への応用が広がっています。
ただし、考古学においてはこの測定原理・方法、電波に関する知識やノウハウが少ない事もあり有効性や限界といった面で正確に理解されていないという状況もあります。活用するにあたっては知っておかなければならないこともいくつかありますが、うまく利用できると多くのメリットを享受できる手法であるといえるでしょう。
遺跡探査における地中レーダのメリット
地中レーダ(GPR: Ground Penetrating Radar)は、遺跡探査において数多くのメリットをもたらします。まず、非破壊的な調査が可能であり、遺跡や埋蔵文化財を物理的に傷つけることなく、その内部構造や位置を正確に把握することができます。この特性により、調査対象を掘削することなくデータが収集可能になり、時間とコストの削減が期待されます。
加えて、地中レーダは広範囲の調査が迅速に行える点が魅力です。これにより、大規模な遺跡や広域にわたる文化財の分布状況を短期間で網羅的に調査でき、効率的な発掘計画の立案が可能となります。例えば、日本国内の遺跡調査においても、地中レーダを用いた事前調査が普及しており、重要な発見を見逃すリスクを低減しています。
また、地中レーダは地質条件に対する適応力も優れています。砂地や岩地、湿潤な土壌など、様々な環境下でも使用可能であり、調査地点の地質条件に左右されずに安定したデータ取得が可能です。さらに、取得したデータはデジタル形式で保存できるため、長期的なデータ保管や後続の詳細な解析、他の専門家とのデータ共有が容易です。
地中レーダによって生成される画像や断層図は非常に詳細であり、遺跡の構造や層を高精度に可視化できます。これにより、考古学者や調査チームはより正確な調査計画を策定することができ、重要な発見や文化財の保護に寄与できるでしょう。
地中レーダ活用における課題
地中レーダの活用にはいくつかの課題が存在します。まず、技術的な限界として、地中レーダの電波は金属や高湿度の土壌に対して減衰しやすく、データの品質が低下することが挙げられます。これにより、特定の地質条件下では正確なデータ取得が難しくなる場合も。また、電波の届く深度にも限界があり、深く埋まった遺物の検出には不向きです。
次に、データ解析の専門知識が求められます。地中レーダのデータは複雑で、ノイズ除去や画像処理には専用のソフトウェアと高度な技術が必要です。このため、データ解析には専門的な知識と経験が不可欠となり、適切な人材が不足している場合、調査結果をもとにした作業にミスが生じる可能性があります。
さらに、地中レーダの導入は初期投資コストが高いことも課題の一つです。高性能な地中レーダ装置は高額であり、導入するための予算が限られている場合、小規模な調査機関やプロジェクトにとっては大きな経済的負担となります。このため、地中レーダの導入を検討する際には、コストと効果を慎重に評価する必要があります。
地中レーダのメリットを最大限に活用するためには、技術の進歩とともに専門知識の普及が不可欠です。技術者の育成や適切な研修を通じて、より多くの調査機関やプロジェクトによる地中レーダの効果的な活用が期待されます。
埋蔵文化財の取り扱い
遺跡は一旦破壊されると復旧させることはできないため、歴史調査を行うためには細心の注意を払う必要があります。特に埋蔵文化財があるような遺跡は先人たちが生活していたさまざまな痕跡を見ることができますので、より慎重な取り扱いが必要です。
エリアの開発を行うにあたって、こういった遺跡などが干渉する場合には文化財保護法で保護されることがあるため都道府県の教育委員会への届け出が必要になります。遺跡の開発を行う場合には必ず埋蔵文化財があるかを確認し、必要に応じて所定の手続きを行うようにしましょう。
なお、工事予定地に遺跡がある可能性がない場合はそのまま着工して進めることが可能です。ただし工事中に埋蔵文化財が見つかった場合、教育委員会への速やかな報告・届け出が必要となります。周囲に遺跡がある可能性があると推測される場合、試掘調査を行ったり文化財保護法に基づく届け出を行う必要があるなど手続きをしなければならないことがありますので注意しましょう。
遺跡探査に求められる地中レーダの条件
高周波数の利用
遺跡探査では、地中レーダが主に使われ、高周波数帯域(100MHz〜1000MHz)を活用することで異なる深度の測定が可能になります。特に、浅い層から深い層まで幅広く対応できるレーダが必要です。具体的には、浅い層は高周波(500MHz以上)を用いて詳細な構造を確認し、深い層には低周波(100MHz付近)を使うことで大まかな地形の把握ができます。
可搬性と現場適応力
遺跡探査では、携帯性に優れたハンディ型やカート型レーダが重要です。これにより、狭い遺跡や障害物の多い場所でも迅速に調査が行えます。また、地中レーダは土壌の水分や地質条件に影響されやすいため、現場に応じた適切な設定と調整が求められます。特に、水分の多い地中では信号減衰が大きいため、高い適応力を持つ機器が不可欠です。
非破壊調査の重要性
遺跡の保護を最優先とするため、非破壊での調査が求められます。地中レーダを用いることで、土壌や埋蔵物を直接掘り起こすことなく、内部の状態を把握できます。これにより、文化財の損傷リスクを抑えつつ、調査の精度を保てます。また、事前のレーダ調査結果に基づき、発掘計画の立案や施工方法の最適化が可能となります。
【特徴別】遺跡探査に対応する建設コンサルティング会社2選
埋蔵文化財(遺跡)は文化財保護法をはじめとした法律で保護されているため、各自治体に届出を行なってから調査を実施する必要があります。
これらの届出対応からまとめて依頼するためにも、遺跡探査の施工実績を持つ会社に依頼することをおすすめします。
2022/4/20時点Googleにて「地中レーダ探査」「遺跡探査」と検索して表示された会社のうち、遺跡探査に対応している建設コンサルティング会社を調査。遺跡探査実績が公式HPに明記されている2社を紹介します。
田中地質コンサルタント
GNSSデータを取得できない奥地の調査も可能
田中地質コンサルタントの特徴
「土」を専門とする
コンサルタント会社
「土のこえ。歴史のおと」「何千万年ぶり?お久しぶりですね」「探究する、ハンパない達成感」といったキャッチフレーズを掲げる⽥中地質コンサルタントは、「地学のチカラ」で未来へと⽂化を継承することを社是としています。
粒度や含水量といった土質の調査、地盤の探査、地質調査など、土のコンサルタント会社としての知見を活かし、防災や文化財保護に貢献しています。
遺跡探査・保護の実績多数
⽥中地質コンサルタントは、貴重な遺跡や遺構、学術的価値の高い断層や海底地すべり地層などを調査するだけでなく、後世に残すべく強化・保存処理をを得意としています。
保存処理を手掛けた遺跡は日本にとどまらず、欧州や南米でも実績を残しています。地震断層や地滑りに対しても、日本だけでなく台湾での施工実績があります。断層は地震テクトニクスを研究する上での貴重な資料として重宝されており、国内外問わず多くの地質研究に生かされています。
田中地質コンサルタントの遺跡探査事例
エルサルバドルのチャルチュアパ遺跡群、カサ・ブランカ地区は、先スペイン期の重要な遺跡と目されており、古代メソアメリカ南東部の王権の起源を探れる可能性がある貴重な文化財です。
田中地質コンサルタントは、遺構・石彫などの分布状況を探ることを目的に本遺跡の地中レーダ探査を実施したほか、遺跡の風化を防ぐ処理を施しました。
田中地質コンサルタントの保有製品例
- 形状
- ハンディ式
- 周波数
- 100MHZ、250MHZ、500MHz、1000MHZ
- チャンネル数
- 記載なし
- レーダ出⼒⽅式
- 記載なし
- 探査可能幅
- 記載なし
- 探査可能速度
- 記載なし
- 形状
- ハンディ式
- 周波数
- 記載なし
- チャンネル数
- 記載なし
- レーダ出⼒⽅式
- 記載なし
- 探査可能幅
- 記載なし
- 探査可能速度
- 記載なし
田中地質コンサルタントの会社情報
所在地 | 福井県越前市国高二丁目324番地7 |
---|---|
受付時間/定休日 | 公式HPに記載はありませんでした。 |
電話番号 | 0778-25-7000 |
公式HP URL | https://geology.co.jp |
八洲開発
八洲開発の特徴
遺跡発掘の専門チームが在籍
八洲開発には、遺跡発掘の専門チーム「木崎文化財研究室」があります。同研究室のスタッフが中心となり、埋蔵文化財の調査計画、地形測量、地中レーダによる探査、発掘区のグリッド設定と土層の確認など、日々発掘調査に関する研究を行なっています。
発掘調査では、遺構の確認と実測、遺物の取上げ等を行うほか、採取された試料の自然科学分析(各種分析や年代測定)、発掘調査の記録、遺物の整理から報告書の作成までを、一貫して行っています。
衛星測位システムと同期して埋蔵物の三次元データを作成
八洲開発が導入した地中レーダは、古墳の石棺の位置や築山の造成過程の調査といった非破壊探査で大きな成果をあげてきました。八洲開発が開発した地中レーダ「トータルステーション連動型高精度ポジショニング地中レーダ探査システム」は、GNSS(衛星測位システム)と連動して三次元解析データを取得可能。スライス断面図化することで、埋蔵物を視覚化することができます。
障害物によってGNSSの信号が受信できない環境でも測位を可能にする中継システムも導入されており、さまざまな環境で緻密な調査ができます。
八洲開発の遺跡探査事例
史跡井寺古墳において、平成28年に発生した熊本地震によって石室構造が受けた影響を調べるための探査を受託しました。探査にあたっては、崩落土を除去し、測量やボーリング調査などを実施した後、崩落した天井石を取り外して安全を確保。壁画等内部状況の確認をし、記録を作成しました。
大塚古墳は3段築盛の前方後円墳で、4世紀中頃に築造されたと考えられています。この古墳の地中レーダ探査を、八洲開発が行いました。その結果、安山岩でできた箱式石棺4基が、これまでに確認されています。また遺物として、鉄製工具、内行花文鏡、壺型埴輪などが出土しました。
八洲開発の保有製品例
形状 | カート式 |
---|---|
周波数 | 350MHz |
チャンネル数 | 記載なし |
レーダ出⼒⽅式 | パルス方式 |
探査可能幅 | 1.5m未満 |
探査可能速度 | 記載なし |
八洲開発の会社情報
所在地 | 熊本県熊本市東区月出1丁目1-52 |
---|---|
受付時間/定休日 | 公式HPに記載はありませんでした。 |
電話番号 | 096-384-3225 |
公式HP URL | https://www.yashima-geo.co.jp |
地中レーダを使用した遺跡探査の手順
遺跡は、一旦破壊されると元に戻せないため、遺跡内(埋蔵文化財包蔵地)で土木工事を行おうとする場合は、事前に県の教育委員会に届出をすることが、文化財保護法で定められています。
遺跡探査は、次のような手順で進められます。
1)遺跡が工事予定地にある可能性が少ないと判断されれば、予定の工事に着工することができます。その場合でも、工事中に埋蔵文化財が見つかった場合は、教育委員会に速やかに報告しなくてはいけません。
2)遺跡が出る可能性が高いと判断されれば、試掘、もしくは工事立会が実施されます。 その結果、工事が遺跡に影響を及ぼさないと判断されれば着工できます。
3)本格的な調査が必要と判断された場合は、発掘調査となります。発掘にかかる費用は、住宅など個人所有の土地では自治体が負担しますが、営利目的の建築物である場合は事業者の負担となります。
4)発掘が決まると最初に測量を行い、発掘するエリアにグリッドを設定します。その後、地中レーダを使って埋蔵物の位置を確認。土層観察用トレンチを使って遺跡の基本層序を把握したのち、発掘作業が開始されます。